「俺とするのはイヤ?」
我ながらずるい聞き方だった。相手に決断を委ねるなんて、対等な条件ならいざ知らず、年下の、恋愛経験もろくになく、素直に純粋な好意を向けてくれている子にやらせるべきではない。そんな理性の叫びをあっさりと撃ち砕いてしまったのは、自分から彼に向ける感情が既に両の手に余るものとなっていたからだ。みんなやってる、なんて、みんながゲームボーイ持ってるっていうのと同じくらいに曖昧で、男同士の付き合いはまだ世間一般ではまだ偏見を抱かれることも少なくない。だから、「変ですよ」という彼の感性は極々自然なものだ。そこにある好意が、黒川の腹の底に渦巻いているものとは異なることだってわかっていた。幼い頃、カヅキが見たという黒川冷への憧れ。それが美しいものとして昇華され、そしてひょんなことで身近な存在となった当人への喜びであったり困惑であったりが入り混じって、彼自身にもその正体が何なのかわかっていない。
「ん、ん、んっ」
ちゅ、ちゅと触れるたびに聞こえる音に耳を真っ赤に染めて、じりじりと後退していくのをそれ以上に踏み込んで壁際まで追い詰めた。逃げ場を失ったカヅキがぎゅっと目を閉じて、黒川の与えるものにどう対応すればいいのかもわからずに身体を固くしている。これではまるで据え膳だ。
嫌じゃないです、その言葉を引き出して、これはお前が許したことなのだと覚え込ませるように何度もキスをした。だんだんと力の抜けていく身体を抱き竦めると、びくんと跳ねてから、おずおずと腕が回される。少しずつくちびるの触れる時間を延ばしていったら、今度は舌先できつく引き結ばれたそこを軽く叩いた。入れて、入れて、イヤじゃないなら入れて。押して押して引いてはまた押して。気を長く待つつもりだったのに、梅干しみたいな顔になっているカヅキがかわいくて、我慢ならなくなるのは一瞬だった。
「カヅキくん、舌出して……」
両手で頬を包み込んで、鼻先が触れ合うほど近くでそろそろと持ち上がった瞼の下を覗き込む。今度は何をするのかと、きっとキスも初めてだっただろうカヅキが瞳を揺らしていた。そんな初心な青年に、ずるい大人はつけ込むのだ。
「もっとキスしたいな、イヤじゃなかったら、……だめかな」
僅かに首を傾げたり、できなかったら寂しいなあと憂いを載せてみたり、君が嫌ならしないよとにおわせるのは常套手段。さっきも同じ手に引っかかったというのに、彼は言葉を詰まらせると、「いやじゃ、ないです……」とおずおず小さな舌を差し出してきた。
素直すぎる。遠慮なくその舌を吸いながら、素直すぎて心配になる。他のやつにも同じことさせてやいないだろうな。彼はモテる、それはもう、ある種の人誑しというべきかもしれないくらいに、モテる。しかしカヅキにその自覚はなく、なにがしかの行動を向こうが起こしたところで初めて自覚する鈍さだ。そのくせ、こんなに無防備にお願いなんか聞いちゃって、そこに多少の好意がある??それは確かに他人に比べれば多いとは思うものの、そうだとしてもチョロすぎる。
ざらついた舌の表面を擦り合わせ、絡ませたその勢いで口の中に侵入すると、さすがにジャケットをぐっと引っ張られた。でももう止まってやるつもりなんかさらさらない。唾液を流し込んで飲み下すのを感じ、味わう粘膜の性感帯を探す。舌の付け根、上顎、それとも歯の裏側だろうか。足の間に膝を割り込ませてしまえばもう逃げることもできないだろう。そんな、反応を伺いながら食らいついたキスは、カヅキの身体から完全に力が抜けてしまうまで続いた。
「っはぁ、は、あ……」
立っていられなくなったカヅキは壁に背を預けたまま座り込み、黒川を潤んだ目で見上げてくる。その股間が反応し始めているのは明らかだった。腿に触れていた雄がどうなっていたか、時折押し上げるように刺激を送っていた黒川が気付かないはずがない。それが恥ずかしいことのように膝を合わせようとするのがまた煽るのだ。
「キスだけでこんなになっちゃうなんて、えっちだね」
「くーさんっ……」
「うん、苦しいよね、わかるよ」
ふっくらとしたそこを手のひらで転がすと、背を丸めて堪えようとする。そこに怖くないよだとか、大丈夫だよとか、耳障りの良い言葉をいくつも吹き込んだ。さすがにオナニーくらいしたことがあるだろうけれど、所詮高校生のそれを塗り替えてしまうくらい黒川にとっては赤子の手を捻るよりも容易いことだ。問題はそこまでどうやって持ち込むか。
シミュレーションは一瞬で終わらせ、結局のところはストレートな表現が一番だという結論を導き出した。やわやわと揉むとさらに質量を増したペニスがいまどうなっているか、想像しなくとも手に取るように分かる。
「もっと気持ちいいこと、しよ?」
抜きっこなんてみんなやるよ、俺もキスしてたら気持ちよくなってきた、人の手に触られるのって気持ちいいんだよ。悪いことを教える大人の気分は悪くない。果たして彼は頷いて、黒川はどろどろ重たい感情を彼の中に注いだのだった。
翌朝、カヅキくんは流されてセックスするなんてダメでしょって怒られるんですけど好きじゃなきゃうんって言いません!て言い返すどころか俺はクーさんが好きですって告白までしてくるからそこでやっとアッ俺カヅキくんに好きだって言ってねえと気付く黒川冷27さい